joker
確かjokerという名前だったと思う。
生まれて初めて吸ったタバコ。
小学校5年生くらいだった。
4つ離れた兄貴と一緒に風呂に入っていた時だった。
兄貴が「流次、タバコ吸う?」
俺は「タバコ?そんなん親父にバレたらぶっ飛ばされるじゃん」
すると兄貴は「だから、風呂に入ってる今吸えばバレないだろ?」
とても陳腐な発想な兄弟。
そう言って兄貴はタバコを取りに行った。
洋モクの細長く茶色のタバコ。
当時はライターが珍しく、マッチが全盛の頃だった。
兄貴は「このjokerは外国のタバコでさ、チョコの味がするんだぜ、風呂で吸えば湯気とかでバレないだろ」そう言って兄貴は2本jokerを風呂場に持ってきた。
俺は単純に「チョコの味がするタバコなんてあるんだ、駄菓子屋で売ってるタバコ型チョコの本物なんだね」正にアホ兄弟。
タバコを風呂に持ち込んだのは良いが、大きな盲点があった。
風呂の湿気でマッチの火がつかない。
そこでまた兄貴と考えた。
すると兄貴は「とりあえず、脱衣所でタバコに火を付けてすぐに風呂に戻ろう。そんで吸えばバレないだろ」
俺も好奇心旺盛な方だったから「うん、それでやってみよ」と答えた。
そして兄貴は俺に脱衣所で火をつけて来いと言ってきた。迅速にと。
言われた通り、俺はjokerに火を付けて風呂場に戻った。
またまた陳腐な発想の兄弟はタバコの吸い方を理解してなかった。火をつけると同時に息を吸い込みタバコに火をつける。
親父の見様見真似だった。脱衣所で火をつけて、ソッコーで風呂場に戻る。
何度か挑戦して、やっとjokerに火がついた。
タバコの吸い方さえ知らない兄弟は試行錯誤を重ね、ようやくタバコの吸い方にたどり着いた。
すると兄貴は「どうだ、流次、チョコの味しない?」俺はイマイチわからなかったが兄貴と一緒に背伸びしてる事に楽しみを感じていた。脱衣所で火をつけても風呂に入ったら湿気でタバコの火はすぐに消えてしまう。それでもスリルと背徳感から楽しく感じていた。
結果的に親にはバレずに済んだ。
懐かしいアホな思い出。
コンビニで買い物をして、弁当の加温待ちの間にふと見慣れないタバコが目に入った。
メビウスという銘柄。確か昔からあったマイルドセブンが、ニコチン依存を助長する恐れがある名称として「マイルド」というワードを使えなくなったからメビウスになったと思う。
そのメビウスの種類が豊富でやけに多いと見ていたらタバコに味が付いていた。
イチゴ味とかメロン味とか、その類。
店員さんと話してる時に、昔jokerというのがありましたねと話題になった。
jokerというワードで忘れていた記憶が蘇った。
仲が良かった頃の兄貴との思い出だった。